先日、私は「負のオーラ」という記事で鬱憤なりフラストレーションがたまった状態の方が良い記事が書きやすいと紹介しました。言ってしまえば憎悪を剥き出しにして何かを批判する記事を書くとそれなりに文章も締まってメッセージ性も高まるのですが、これらは言うまでもなく負の感情がこもった文章です。
ただこれの逆、つまり何かを誉めたり賞賛したりする正の感情を文章にするというのは案外難しかったりします。文章で何かを誉めようとすると有体な表現というか見慣れた表現の連発になりやすく、またそうした表現は繰り返せば繰り返すほど安っぽく見えてきます。なお余談ですが、京都人が誉め言葉を使う際は本当に誉めて言っていることより皮肉で言っていることの方が多いです。
なんで本当に心の底から賞賛したいという気持ちがあっても、それを文章で表現するとなるとそれは至難の業です。賞賛に限らず感謝や激励といった正の感情を文章にぶつけようと思ってもなかなかぶつけきれず、これまで私もそこそこの時間を文筆に捧げてきましたが「これだ」と納得できる表現に仕立て上げられた覚えは負の感情とは違い一度もありません。逆に負の感情だったら「どうや!」って言える表現はいくらでも作ってきた覚えはありますが。
なおまた話が横道それますが正の感情の中で一番頻出なのは恋愛系の感情で、J-POPの歌詞なんかは逆にこれしかないのと言いたくなるくらい溢れてます。しかしどの恋愛ソングも私の胸を打つ表現はなく、「てめーらの感情なんてこの程度か」とやけに上から目線で物言ってます。
話は戻しますが、そういう正の感情が込められた文章として一番私の胸を打った作品は何かというと、変な話ですが人気漫画の「ジョジョの奇妙な冒険」でした。この漫画はセリフ回しが独特で名言も数多く生み出されていますが、それらの名言とされる表現はどっちかっていうと激しいものが多く、具体的には、「このド低能がぁー!」、「かかったなアホが!」などばかりですが、こうした暴言に紛れて実にきれいな日本語表現がたまに入ってきます。
それらのきれいな表現はそれまでのストーリーがあるからこそ映えるというのもありますが、第七部「スティール・ボール・ラン」の後半で主人公のジョニィ・ジョースターがそれまで一緒に旅して苦楽を共にしてきたジャイロ・ツェペリに向けて言った下記の言葉が、本当に私の胸を打ちました。
「ありがとう…ありがとうジャイロ。本当に…本当に…『ありがとう』…それしか言う言葉がみつからない…」(22巻より)
恥ずかしい話ですがこの表現を見る度に私はリアルに涙を流します(ノД`)
必要以上に言葉は重ねず、友へ向ける感謝の気持ちを「ありがとう」としか言えないとするこの表現は私が知る限り最も感情が込められている表現のように思え、もし仮に使う機会があったらどっかで使おうと密かに画策しているくらい気に入っています。
同じくこの第七部では本編とは別にインターミッション的な回想シーンがあるのですが、そこでの文章も際立って美しい表現が成されています。ここで簡単にこの第七部のあらすじを説明しますが、主人公たちは騎馬でのアメリカ横断レースに参加しているのですがそのレースの過程で「聖人の遺体」を奪い合うこととなり、暗殺者たちに狙われながらレースというか旅を続けるという話です。
そのインターミッションは旅の途中、主人公が独白するような形で語られます。ちょっと長いですが引用すると、
馬が入れる木の下や岩陰を見つけたら
とにかくその場所に防虫対策の簡易ベッドを作って ひたすら寝た
馬は立って眠る
陽が傾きかけたら再出発で 月明りがあれば夜進み
闇夜なら 馬が岩や毒トゲで負傷するリスクをさけ 即刻キャンプの決断をする
ぼくらの馬は水を4日間飲まなくても大丈夫だった
夜のキャンプ時もそれなりに忙しい
馬の毛並みのブラッシングをみっちり数時間してやる
筋肉マッサージの意味もあるが 防虫や病気の危険回避のためだ
進行中 道幅の視界が狭くなり
仮に道端に朽ちた木の十字架が何基かあったら要注意だ
過去に山賊が旅人を虐殺したか それに近い事故が起こった場所の可能性が高い
襲撃に適した「地形」という事だ
敵はいないかもしれないが まわり道するか
または覚悟を決めて 戦闘態勢をとってそこを通り抜けるしかない
でも レース中もっとも神経と体力を使うのは「河」を渡る時だ
それが大きい河だろうと 小さい河だろうと
水に入ると360°無防備状態になるし ブヨや蚊の大群はいるし
もし水の中を泳いでいるマムシに馬が噛まれでもしたら その時点でアウトだからだ
ここまでの旅 いったい何本の「河」をぼくらは渡って来たのだろう……
そしてあといくつの「河」を渡るのだろう……
ジャイロの淹れるイタリアン・コーヒーは こんな旅において格別の楽しみだ
コールタールみたいにまっ黒でドロドロで 同じ量の砂糖を入れて飲む
これをダブルで飲むといままでの疲れが全部吹っ飛んで
驚くほどの元気が体の芯からわいてくる
信じられないくらいいい香りで もっともっと旅を続けようって幸せな気分になる
まさに大地の恵みだ
ジャイロはたまにこれをヴァルキリー(馬)たちにぬるーくして飲ましている
(14巻より、サイト「族長の初夏」さんの「荒木飛呂彦の文体」という記事を参照しました)
紀行文のような文章ですが、読んでいて旅の様子が目に浮かぶようであり、また主人公二人の本筋には出てこない交流も書かれるなど、一読して凄い衝撃を受けた文章でした。正直に述べると、これほどきれいな文章を自分には書ける自信がありません。
「ジョジョの奇妙な冒険」の作者である荒木飛呂彦氏は漫画家としても一流ですが、こうした場面場面の言葉の表現においても地味にすごい才能の持ち主のように見えます。ジョジョというと激しい表現ばかり注目されがちですが、こうしたきれいな表現ももっと注目されてもいいのではないかと思えます。
2 件のコメント:
j-popについては全く同感です(笑)ジョジョは読んだことないので詳しくは分かりませんがやはり過程(過去)があってこその名言のような気がしますね。花園さんの文章を読む限り、その名言を読むことにより過去が想起されているように感じます。
僕の好きな美についての名言(迷言?)は漫画版「風の谷のナウシカ」において主人公ナウシカが終盤で叫んだ「いのちは闇の中のまたたく光だ!」です。この発言はおそらくこの作品において宮崎さんが最も言いたかったことであり、それまでの物語の過程を踏まえると非常に説得力があると思います。簡単に漫画版ナウシカについて説明しますと、漫画版は主人公ナウシカの行動に対してアンチテーゼが出てくるストーリー展開になっており、終盤に進むにつれてなかなかにカオスなことになっていきます。人によって評価が分かれる作品だとは思います。長くなるのでこれくらいにしますが漫画版ナウシカは紅の豚などと違ってカッコつけてる部分がなく、宮崎さんの本心が作品に滲み出ている感じがして個人的には宮崎作品のなかで一番好きです。正直な話漫画版を読んでしまったら映画版とか「まだまだだね!」って感じです。まだ読まれていないようでしたら漫画版ナウシカを読むことを強くおすすめします(宣伝みたいで申し訳ないです)
ジョジョのこの文章は確かに前段があって初めて感動できるものかもしれません。ぶっちゃけスティールボールランだけでもいいから、家畜にはなりたくないさんもぜひ読んでみてください。
ナウシカに関しては私は漫画版は読んだことがないのですが、ご紹介されている言葉は確かにいいワンフレーズですね。でも命に関して私は自分自身を粗末に考える成果、「アリのような無意味な一生」とか「義は泰山より重く、命は鴻毛より軽し」って言葉が胸に来たりします。こんなことばっか言ってるから友達いないんだろうな。
ついでにナウシカについてもう少し書くと、大学時代の友人がガチなナウシカ好きで、テレビでロードショーされる度に翌日やけにニコニコしているのがちょいちょい不気味でした。
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