一昨日、テレビでオリンピック柔道の中継を見ていたところ、メダル授与のシーンで東京五輪の柔道で金メダルを取った、オランダ人のアントン・へーシンク氏が授与者をやっているところが映されました。
今でこそオリンピックの人気種目となっている柔道ですが、もともとは東京五輪限定のゲスト種目、つまり一回こっきりの予定でした。それがこのアントン・へーシンク氏が無差別級にて本家の日本人を下し金メダルを取ったことによって、外国人でも金メダルを取れることが確認され、皮肉な話ですがこれ以後のオリンピックでも柔道が行われることが決まった要因となったと言われます。
しかし、私はこのアントン氏が金メダルを取ったということより、決勝に勝った後の彼の取った行為に賞賛の気持ちを感じずにはいられません。アントン氏が決勝に勝った瞬間、彼の故国のオランダの関係者は喜びのあまりに彼に抱きつこうと駆け寄ってきたのですが、アントン氏は「礼に始まり礼に終わる」、柔道の敗者を辱めず純粋に技を競い合う精神からその関係者たちを制止して試合場に上がらせず、喜ぶようなそぶりは一切見せずに試合場を後にしたそうです。
さらにその後、日本での恩師であった当時の日本柔道代表監督の下へ行き、「先生、申し訳ありませんでした」とまで言ったそうです。ここまでやらずとも……。
私がこの話を知ったのはちょうど四年前、前回のオリンピックにて谷亮子氏が決勝に勝ったその瞬間、ガッツポーズをとって喜ぶ姿を見せたことに対して苦言を呈したコラムからでした。まぁその谷氏は一昨日負けちゃったんだけど。
しかし、この話を思い出すにつれていろいろ考えることが出てきます。このところ、日本の柔道界では日本ルールと国際ルールとの間でせめぎ合いがよく起こっています。。昔からあり、日本人には有利(とされている?)日本ルールですが、国際柔道連盟にはすでに外国人の理事も数多く、彼らの主張する国際ルールを日本側も受け入れざるを得なくなり、このままでは本来の伝統的な柔道からかけ離れてしまうのではないかという意見が関係者たちからよく聞かれます。
確かに、こうルールの変更がされていくことによって伝統的な柔道から離れていくという話は分かりますが、今の柔道に守るべき伝統というものが残っているのか、ここに私は疑問を呈します。というのも、試合とか見てるとこのところ勝った選手は皆ためらわずに喜ぶ姿を見せるようになっています。
別に喜ぶなとは言いません。しかし、敗者に対しても礼を尽くす、私が愛する柔道の精神はこれです。この中心たる精神なくして、何が伝統的な柔道と言えるのでしょうか。せめて相手選手のいる試合場くらいは勝者は黙って退場すべきでしょう。
ここで私の意見を言います。柔道の国際ルール、日本ルールのことであれこれ言い合うくらいなら、元の精神に立ち返り、根本を固めることが今柔道界に必要な改革なのではないしょうか。それこそ、あのアントン・ヘーシンク氏のように。
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