いきなりですが、日本はよく法人税の高い国だといわれています。特にこれを強く主張しているのは経団連、それも経団連会長でもあるキャノンの御手洗富士夫ですが、彼の言によると日本の法人税が高いままだと、有力な企業はどんどん税負担の少ない国へと本社を移転してしまい、将来的には税収が減ってしまうからという理由で、よく政府に対して法人税の引き下げを迫っています。
しかし、私は前からこの御手洗の主張にどこか奇妙さを感じていました。というのも、先進国中世界で一番国民の税負担率が少ないアメリカを除くと、社会福祉が充実しているヨーロッパ諸国などでは国民の税負担率は日本の倍近く、北欧に至ると実際に倍以上ある国ばかりです。国民税負担率には法人税はもとより消費税や所得税といった個人の税金も含まれるため、一概に言い切れることはないかもしれませんけど、普通に考えたら税負担率の少ない日本の方がヨーロッパ諸国より法人税は低いのではないかと考えていました。
そうしたら案の定、昔に知り合いがくれた資料、出典は分からないのですが恐らく去年の新聞の記事で、「日本企業負担 仏独の7~8割」という見出しの記事にて、日本の企業が負担する法人税、社会保険料の合計は、フランスやドイツに比べて遙かに軽いということが説明されていました。
具体的に数字を出すと、記事には業種別に企業負担率を比べており、自動車製造業では、
日本 :30.4%
ドイツ :36.9%
フランス:41.6%
という結果になっており、続けてエレクトロニクス産業では、
日本 :33.3%
ドイツ :38.1%
フランス:49.2%
となり、両方ともに日本は他の二カ国と比べて低いということが説明されています。
記事にははっきりと書いていないのですが、確かの法人税単体で見るならば日本は先進国の中で高い方なのですが、同じく企業が負担する社会保険料と合算すると、他の先進国より企業の負担は低いということを暗に示しており、御手洗の主張の、現行の法人税実行率40%から30%への引き下げの議論は間違っていると主張されていました。
さらに続けて同じ記事にて、御手洗の主張のように法人税の高い日本から企業は本当に海外へ逃げるのかという点について、経済産業省の行った「公的負担と企業行動に関するアンケート調査」にて生産拠点の海外移転を計画している企業に複数回答でその移転理由を尋ねたところ、以下の結果が出たようです。
一位、労働コスト :84.7%
二位、海外市場の将来性 :65.1%
三位、取引先の海外移転 :47.6%
四位、その他のコスト :42.8%
五位、税・社会保険料負担:40.2%
という結果となり、海外移転理由の第一位はやはり労働コストで、御手洗の主張である「税・社会保険料負担」を理由に挙げているのは複数回答にもかかわらず半分にも満たないため、こっちでもまた間違っていると記事で指摘されています。さらに同じ調査で「法人実効税が30%程度まで引き下げられた場合に国内回帰を行うか」という質問に対して、「検討する」と答えたのは17.8%で、「検討しない」が69.5%となり、こちらもやはり御手洗がおかしなことを言っているという結果になりました。
このように、別にありもしない不安を煽って自分の取り分を増やそうとする御手洗の主張にはほとほと頭にきます。そもそも御手洗のいるキャノンは株式保有比率で見たら過半数を外国人投資家、企業が持っており、事実上外資系企業と言ってもよい会社です。そんな会社のトップが日本の経団連の会長をやっているだけでもおかしいというのに、日本政府に対してこんな妙な要求をするというのもおかしなことです。
さらに付け加えると、「税金が高いから」という理由だけで海外移転を行うような企業は、いざ日本が危機に陥った際には平気で裏切るような企業のように思えます。そんな獅子身中の虫を飼っておくくらいなら、この際どんどんと出て行ったほうが日本のためになるでしょう。そんなわけで、まずはキャノンに出て行ってもらいたいもんです。こいつらは偽装請負を朝日新聞に指摘されるや逆切れして、朝日への広告を打ち切った連中だし。
14 件のコメント:
せめてその新聞の出所がないと、あまり信用できないのですが、何か情報はありますか?
何月何日の何新聞とか、そもそも誰から貰った情報なのかとか。
まずは、ググってください。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/084.htm
比較は大事ですけど、シンガポール、香港、台湾、スイスとかも比較しないとね。企業が逃げるという議論をするなら
EU圏限定でもないわけですから。
>ATMさんへ
この記事にて紹介している資料の出所ですが、これは大学の講師から授業中に受け取った切抜きのコピーです。今日そのコピーをまた出して手がかりはないかと探してみたところ、上部に「A 10/8」と手書きのメモがされており、そのまま類推するなら朝日新聞の10/8判かと思います。年度についてはこのコピーを受け取ったのが2007年度であることから間違いないと思うので、2007/10/8版をまた時間があるときにでも調べてみます。
>PONさん
私はこの記事にて法人税単体では日本は世界的にも高い税率だと書いており、ご指定のアドレスにある資料となんの不一致もないと思います。この記事で私が述べているのは企業が実質的に税金として負担する法人税+社会保険料の総額のことで、法人税単体のことではありません。もしググれというのなら、私はhttp://www.geocities.jp/yamamrhr/ProIKE0911-80.htmlのページなどがよろしいのではないでしょうか。
>匿名さんへ
言われること、その通りです。特にスイスなんかは税率が安い事で欧米の企業がよく移転していると私も聞いております。ただこの辺は最近の記事でも書いてある通り、今後多国籍企業というものをどう捉えるか、企業に対してどう課税していくか、企業にとっての国境とは何なのかを深く議論するべき箇所かと思われます。
手厚い福祉のヨーロッパと比べても…という気がしました。50歩100歩と言いますか。
欧州はどこも、過去の成熟から緩やかに後退していく活力のないイメージです。
実際に低い新興国とか低そうなイメージのアメリカなど、活力のあるところと比べてはどうかと思います。
> 欧州はどこも、過去の成熟から緩やかに後退していく活力のないイメージです。
それは本当にイメージだけでないか?
EUによって域内の物流の移動が自由になったことで、東ヨーロッパの安価な労働力と成長力を取り込んだともいえる。金融不況が火種をまいてはいるが。
お世話になっております。
はてブで 51~users ですね!
おおむね、書いてあることに賛同します。
大企業は金を稼ぐ力がある。それを日本人のために、税収を捧げることが一番大事で、税金を少なくして、株主へ配当するなど、愚の骨頂です。売国奴でしょう。
何のための大企業でしょうか。そんなのが権力の座に居座っていることこそ、われわれ日本国民の不幸です。
すでに弱肉強食による殺伐とした世の中になりました。就職できない若者や、結婚難民の女性が一番の被害者でしょう。
竹中の市場原理主義に大きく反対します。結果、税収は落ち込み、自殺者は激増し、若者は夢もなく結婚も出来ない。われわれは外資系大企業に搾取されているのです。
消費税による税収の補填も外資のために、法人税を下げる経団連に召し上げられているのです。
その記事自体の出元はわからないけれども、内容は赤旗が2006年あたりに試算したものだったと思う。
志位氏が似たようなこと言ってるし(下のほう)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-08-18/2009081802_04_1.html
>5レス目、6レス目の匿名さん
社会保障費の比率が経済の勢いに影響するかとなると、6レス目の方同様に私はあまり直結しないと思います。全く無関係だと言うつもりはありませんが、国際競争力では高福祉国家として名高いフィンランドがノキアを要していつも上位に立っており、東ヨーロッパとの関わりも今後見逃す事は出来ないでしょう。
>8レス目の匿名さん
私ももし企業が。「税金の使い道に無駄が多いから払いたくない」というのならまだ理解できますが、払った税金が日本全体にために使われて周りまわって自分に返ってくる概念がキャノンにはないんじゃないかと、私もこの記事をかいてて思いました。この辺はまた新しい記事にでもいろいろとまとめてみようと思います。
>9レス目の匿名さん
ビンゴです。今日この記事の「はてなブックマーク」を私も見てみたらまさにそのしんぶん赤旗のリンクを貼っている方がおり、書いてある内容が私の持っているコピーと完全に一致しました(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-10-08/2007100801_01_0.html)。
最初の私のコメントにあるように、私はてっきりこの引用した記事のコピーをくれた先生の「A 10/8」というメモを見て朝日新聞と勘違いしてしまいましたが、AはAでもしんぶん赤旗だったようです。最初のATMさん、ごめんなさい。
それにしてもあの先生、赤旗もマークしてたんだなぁ。
社会保険料の企業負担分は実際にはその少なからずが、従業員の給与に帰着しているのをご存知ないようで・・・
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2008/ShakaiHokenryonoKichakuBunseki.pdf
>11レス目の匿名さん
具体的に何が言いたいのでしょうか?
アドレスの貼られた資料を読みましたが、この資料は私の解釈ですと、企業へとかかる社会保険料の率は被雇用者の賃金の変動に影響を及ぼすという内容だと受け取りましたが、もし仮にそうだとしたら企業がその国で営業するのに国から支払いを要求される法人税と社会保険料の議論とは余り関係がないかと思います。
一体どういう風にこの資料とこの記事の内容が関係するか、ご説明いただければ幸いです。
よく分からんけど、社会保険料なんて高くても給料に回してしまう裏があるから、
法人税が安い方が得なんだと、11は言いたいのかも知れませんが、
そもそもヨーロッパの方が高福祉国家化していることは事実だろうし、
企業は、福祉国家を担う社会的責任として、高い税金を進んで負担しているのであって
そんな卑怯でエゴな考え方をするのは、日本人だからだと思うけど。
実際、ヨーロッパの企業が負担している税金は日本よりも高いんじゃないですか。
13レス目の匿名さん、レスが遅くなり申し訳ありませんでした。
いわれる事ごもっともで、社会保険料がいろいろとこねくり回せるという内容だったのかもしれません。ただそれを言えばこの前のキャミソール大臣みたいに、法人税も税引き前の経費処理に本来なら個人的支出として出す物を無理矢理混ぜ込む事でいくらでもごまかしが効くとよく聞きます。
この法人税の減税議論はまた盛り上がって来ていて企業の海外流出を防ぐためと題目を政府は唱えていますが、それよりも税金をきちんと納める企業がステイタスがつくような空気を作るなど、別のアプローチから繋ぎ止める方が個人的にはまともな気がするのですが……。
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