ここ二、三年の間のうちの親父の口癖に、こんなものがあります。
「昔は一つのビジネスモデルが三十年続いた。今は三年持てばいいほうだ」
親父の言う通りボーっと消費者で居続けるとあまり気がつきませんが、この十数年間の経済変動は19世紀における百年間の変動よりも大きいのではないかと思うほどに変動が激しいと言われています。
一例を上げると、今から十年前にあって今の日本にはほぼ全くといっていいほどになくなってしまったものとしてPHSがあります。
大体95年くらいから携帯電話の電池技術が進んで個人用の電話を持つ日本人が増えていったのですが、その携帯電話市場は今の世代の中高生には信じられないかもしれませんが、同じ携帯電話でも現存の携帯電話よりPHSという電波などの仕様が異なっていた電話機の方がシェアが強く、また携帯電話会社でも当初はJ-PHONEといって、現ソフトバンクモバイルの前身となった会社が一番シェアを持っていました。
このPHSは電波が弱いものの携帯電話より通話料や基本料金が割安ということで当初早く普及して行ったのですが、2000年に入る頃には携帯電話の通話料もどんどん安くなっていき、同じ値段なら機能も充実していることから徐々に乗り換えられていってしまった電話です。年代にして大体私より二学年くらい上の世代はまだこれを使ったことがありますが、私らの年代だとマセたクラスメートくらいしか使っていませんでした。逆に二学年下になるともはや見たこともないというほどで、実に短い間だけだったのだと今更ながら思います。
そうしてPHSを携帯電話市場から追い出した現存の携帯電話も、当初はJ-PHONEが一番強かったのに97年頃にNTTドコモが「ⅰモード」を作り出すや一変し、一挙にシェアを奪い取られてしまいました。かと思った2000年初頭にauが洗練されたデザインと「着うた」を引っさげるやぐっと躍進したものの、今では「着うた」はどこの携帯電話会社でも標準装備となり、ドコモとソフトバンクがシェアを増やしてauだけが一人負けの様相を見せています。
ここ十数年で一番めまぐるしい変動があったのはこの携帯電話市場ですが、ほかのいろんな日本の市場でもこれと似たようなめまぐるしく市場変動が起きています。それこそかつて勝者だった企業がそのすぐ後には敗者になっていることも最近では珍しくなく、うちの親父の言っている事もあながち間違ってはいないでしょう。
では何故それほどまで経済世界の変動が激しいのか、その原因は言ってしまえば技術革新、サービス革命の速度が上がっているということに尽きるでしょう。
それこそ昔であれば地元に店を開いて落ち着けばそこで十年以上は安定して営業できたものが、今では毎年何かしらのてこ入れやら店舗拡大を図らなければすぐに潰れてしまう、というような具合です。しかも現状の具合の悪いところは、潰れないためにてこ入れをしたからって必ずそれが効果を出すとは限らず、下手をしたら命取りにもなってしまうことです。
これは逆を言えば、新規参入側はⅰ-podのように一気に大もうけできる可能性が広がったと見ることもできます。ですがあまりにも早すぎる変動では技術的、経済的には良くとも、その社会に住む人間にとってはかえって住みづらくはないんじゃないか、と言うのがこのところの私のマイブームです。
確かに既得権益層がいつまでも何もせずに生活できるような世界は問題外ですが、人生死ぬまで努力し続けなければならない世の中もどんなものかということで、親父の言を借りるなら一つのビジネスが三年も持たない世の中というのは息苦しい気がします。
じゃあ具体的にどうすればいいのかですが、私の案は一つは過剰なグローバル化にやや制限をかけて過剰な国際競争にブレーキをかけることだと思います。何も共産主義ほど徹底するのには反対ですが、人間の競争を野放しにするのはそれはそれで危険なことではないかと思い始めてきました。
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