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2008年12月10日水曜日

最近の格差問題の報道について

 今見たニュースですが、これはやりすぎでしょう。

USEN「違法な安値」に20億賠償命令 有線業界2位のキャン社勝訴(YAHOOニュース)

 もともとUSENはこれまでに何度も法律を無視して処罰を受けている会社ですから、今更あまり驚きませんが。

 さて最近時事解説が少なくなってきているので、ちょっとまた短いながらもついでにやっておこうと思います。
 まず経済ですが、最近あちこちで内定取消しのニュースが急激に行われるようになってきました。こうして報道が行われるようになってきた背景には派遣社員や期間従業員などのリストラがどんどんと押し進められ、昨日にはソニーも正社員を一挙に減らすと発表するなど雇用問題が内定取消し者に限らず範囲を広げて大きくなってきたことが背景でしょう。

 特に派遣社員の場合は契約の打ち切りによって社宅から突然追い出されてしまうなど、再就職先を探そうにも探せなくなる上に大きなハンデを抱えてしまうなどといったことが派遣社員の側から主張され、会社側の要求に抵抗するためあちこちで派遣社員のみの労働組合が出来始めているという報道が目立ちます。
 労働組合とくれば今年に入り小林多喜二の蟹工船ブームが起きたり、共産党の入党者が若者を中心に一万人も増加するなどといった報道もあり、また私が聞いた話だとドイツでも若者の失業問題が増加しているらしくまたお決まりのネオナチが増えてきたとかいうニュースが出るかと思っていたら、なんと向こうでは自国出身ということもあるのかマルクスの「資本論」がブームになっているそうです。なんていうか、蟹工船とマルクスの「資本論」とを比べると、ちょっと差を感じてしまいます。ちなみに、私は「資本論」は買ったものの途中で投げました。

 ちょうどこの前読み終えた「論争 若者論」(文春新書)の中でこの蟹工船ブームについて金沢大学の仲正昌樹氏が寄稿しており、近年、何でもかんでも格差や派遣といった言葉に結び付けた現象と原因の因果論が多すぎると警鐘を鳴らしております。記事の中では今年に起きた秋葉原連続殺傷事件を例に挙げ、左翼側の知識人は知った振りをして犯人は派遣社員でその社会的構造から来る不満が今回の事件の遠因になった主張しているが、この犯人には両親のいる実家もあり、また派遣契約も最初の報道のように当時は打ち切られる予定もなく実際には追い詰められた状況とはほど遠い状況であることを指摘し、またその他の派遣社員についても、蟹工船の中で描かれているような逃げ場のない海の上で監視や暴力によって抑圧された状況にいるわけではなく、作者の小林多喜二の置かれた状況のような官憲による監視の目のない現代と蟹工船を比すのは土台からして間違っていると主張しています。

 私自身も、派遣制度の問題や格差の現状については確かに問題だとは思いますが、言われて見ると今は何でもかんでも悪いことや問題(犯罪等)が起きたら派遣や格差がすぐに原因として持ち上がってきており、いくつかはこじつけの部分もあるのではないかという気になってきました。
 先ほどの仲正氏は一部の評論家や経済学者による格差ゆえに結婚や恋愛も出来ない若者が増えているという主張に対し、子育てはともかくそういった恋愛関係まで本当に格差が影響するのかと疑問を呈し、もっと冷静にこれらの問題を分析するべきだと主張しています。

 私も基本的にこの意見に同感です。たとえば内定取消しの問題についても、以前に書いた「内定取消しについて」の記事のように就職が行われる遙か以前に行われる現在の企業の採用慣行自体に問題があると睨んでいますが、この意見が正しいかどうかは別として、今日日の報道を見ているとただ内定取消しを行った企業をなじるだけの報道ばかりが目立ち、問題の根本的解決についての議論はあまり見当たりません。
 私が社会学を教わる最初に、「社会に対してウォームハートを持って問題を見つめ、クールな思考で分析せよ」と教わりましたが、まさにこの通りでしょう。

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