前回の連載記事ではゆとり教育の概略について大まかに解説しました。思ってた以上に長くなって自分でも結構驚いているのですが、この記事では現状での結果、評価、見直しにおける各所の混乱と、このゆとり教育の何が問題だったのかをいくつか提唱します。
まずこのゆとり教育の結果ですが、今年の日本国内の全国調査では以前よりもマシな結果が出て学力低下も下げ止まったと言われましたが、それ以前はというと如実に日本の子供の学力低下は国際学力テスト、通称PISAにて現れています。
まず2000年度の調査では一位だった数学が03年には六位、06年には十位にまで下がりました。さらに、ゆとり教育のそもそも目的は詰め込み型教育から応用力をつけさせるのが目的で、数学能力が下がることは織り込み済みなのですが、数学力の低下と引き換えに強化を図った読解力の方でも00年度が八位だった日本の順位は03年度には十四位、06年度は十五位とこちらでも低下をし、言ってしまえば全下がりという最悪な結果となっております。
ついでに書いておくと、日本と比べて明らかに授業時間数の少ないフィンランドでは毎回どの分野でもトップクラスの順位にランクしております。
こうした結果に加え、前回にも書いた教育現場での指導者側の苦労話からゆとり教育に切り替えたことによって明らかに日本の学力は低下したといってもいいでしょう。この学力低下の原因がカリキュラムの削減によるものか、はたまた前回に書きそびれた総合学習などの取り入れによる授業時間数の減少が原因なのかまではここではいちいち分析しませんが、少なくともこのゆとり教育はもっと早く見直しを図るべきでした。既にゆとり教育が導入し始めた頃からこうした懸念が強く叫ばれた上に明確な傾向も見え始めていたにもかかわらず、日本人お得意の問題の先送りによって明らかにこの問題への議論は先延ばしにされてきています。
一応ゆとり教育に完全に移行して二年後には、それまで指導要領以外の内容を教えることを厳しく制限してたのを教科書以上の内容を教えても構わないとくくりをわずかに緩めていますが、ゆとり教育自体に初めてメスを入れたのは安倍政権でした。安倍政権によって教育再生の名の下に「教育再生会議」が集められ、恐らく安倍元首相はこの教育制度を抜本的に変えるつもりだったのでしょうがいかんせん本人が教育改革を行う前に先に倒れてしまい、教育再生会議も行き場を失って次の福田政権時に申し訳なさげに「とりあえず改革した方がいいよ」という報告書を出して解散してしまいました。なお当時のメディアはこの教育再生会議に対して散々金を使ったくせにこの程度かという報道をしていましたが、ちょっとあんな報告書では言われても仕方がないと私も思います。
ただこの再生会議をめぐる動きの中で、いくつか奇妙なやり取りが見受けられました。そのやりとりというのも、ゆとり教育に舵を切った文科省の元幹部の発言です。
もうこの人は退官しておりテレビなどでどうしてこのゆとり教育を実行して日本の学力をわざわざ低下させたのだという厳しい質問を受けるとその元幹部は、国民がゆとり教育に変えろと強くせがんだからだと言い返していました。
この元幹部の発言を官僚特有の責任逃れ体質と言い切れば簡単ですが、私自身、この元幹部の言うようにゆとり教育への移行が90年代前半に一部で強く主張されていたような気もしないでもありません。無論この移行を強く主張していたのは自民党と仲の悪い日教組などの集団ですが、少し記憶が曖昧ですが、なんかのテレビ番組で日教組の幹部とその文科省の元幹部がどちらも、「ゆとり教育への移行には反対していたが、お前らが強くやれやれ言うから」とお互いに言い合っているのを見た気がします。
こう言ってはなんですが、前述の通りに日教組と自民党は昔から仲が悪いので日教組に言われたくらいで自民党の影響力の強い文科省の人間がその要求を呑むとは俄かには信じられません。じゃあどっから、誰がこの移行を行おうとしたのか、本当に国民はゆとり教育の移行を望んでいたのかということですが、細かい過程を省いて結論を言うと私は官僚が独自に始め、独自に実行したというのが本当のところではないかと思います。一部の関係者の話を人づてに聞いた内容では、どうも文科省の役人は敢えて国民の総白痴化を狙っていたという話を私も聞いたことがあり、案外それが真実なのではないかと思います。
更に言うと、このゆとり教育の移行がどこから、そして本当にどんな目的で始められたかが全くわからないために現在に至るまで見直しや建て直しが行えずにいるのではないかという不気味さを私は感じています。じゃあ具体的にどう立て直すかですが、まずは今遡上に上っていますが教科書のページ数の増量、土曜日授業の完全復活、暗記や詰め込みの奨励など、言ってしまえばゆとり教育以前にまずすべて戻すことから始めるべきだと思います。その上でこれまでやってきたゆとり教育との比較を行い、よかった点は残したりするのが手っ取り早い気がします。
最後にこのゆとり教育によって本当に子供たちがゆとりを得たかについてですが、私が小学六年生の頃に中学受験をして私立中学に進学しましたが、当時は三十人以上のクラスの中でわずか四人しか行わなかった中学受験が現在、都市部の学校では約半数もの子供が受験をしているそうです。たとえ学校のカリキュラムが下げられたところで入学テストのレベルは下げられるわけでもなく、結局以前に比べて明らかに塾通いをする子供の割合は増えているそうです。そのため、所得の大きい家庭は塾で学力を維持する一方、所得の低い家庭は下げられたカリキュラムの授業を甘んじて受けるより他がなく、学力の差が一段と広まっているそうです。私の恩師も、ここ数年で入ってくる学生の優劣の差が大きくなっていると述べています。
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