この記事は前回の「八ッ場ダム建設問題に対する私の意見 その一」の記事の続きで、前回の記事を読んでいない方はまずそちらをご覧になってからこちらの記事をお読みください。
前回の記事ではダム建設の目的がどうも実情に即していないという点から私はこの八ッ場ダム建設に反対だと主張しましたが、この記事では主に予算面とダム建設による弊害の観点から私が反対する意見を紹介いたします。
まず予算面についての議論ですが、パッと見で一番わかりやすいため以下の記事から紹介します。
・【金曜討論】八ツ場ダム 小渕優子氏、嶋津暉之氏(msnニュース)
このリンクを張った記事では自民党の小渕優子議員と学者の嶋津暉之氏がそれぞれ八ッ場ダム建設賛成、反対の立場で意見を主張しあっている議論なのですが、比較的争点も整理されていて分かりやすい内容なのでこの問題に興味がある方は是非ご覧になることをお勧めします。
それでまず小渕氏の建設賛成の意見なのですが、まず治水、水源確保について国交省の主張通りに「今後、気候変動でどうなるかわからない」という曖昧な主張です。確かに小渕氏の言うとおりに将来に起こりうるかもしれない事態に対策を行うのが政治の仕事ですが、大金使う建設計画なのだからせめて根拠となる統計を出してから言ってもらいたいものです。
そして肝心の予算についてですが、これは言うなれば今中止するのと建設を実行するのではどちらが無駄なのかという議論なのですが、小渕氏はもちろん中止した方が無駄遣いが多くなると主張しており、ちょっと長いですがその辺について全部元の記事から引用させてもらいます。
--中止した場合、支出した負担金の返還を求める自治体がある
「利益享受を前提に、これまで6都県が約1980億円を負担してきた。返さなければならないのは当たり前の話。建設継続の場合は、あと、長野原町の生活再建関連費用約770億円とダム本体工事関連費用の約620億円の計1390億円ですむ。7割の工事が終わっているのに、ここで建設中止となると負担金の返還だけでなく、新たな治水整備費用、別の生活再建費用が必要になり、確実に中止した方が費用はかかる」
この小渕氏の意見に対し建設反対を掲げる嶋津氏の意見は、こちらもまた全文引用させてもらうと、
--建設を中止した場合、国費支出は増えるのでは
「国交省の調査で、貯水域周辺の22カ所で地滑りの可能性があるが、うち対策を行うのは3カ所だけ。川原湯地区の上湯原などに住民移転地があるが、この周辺は最大の地滑り危険地域で本当に不安だ。大滝ダム(奈良県・吉野川)では水をため始めた後、大変な地滑りを起こし、38戸が移転、対策費に308億円、工期を10年延長した例がある。また、八ツ場ダムに水をためると、吾妻川沿いの発電所への送水量が減り発電量が減ってしまう。その分を補償するのが『減電補償』で、それに数百億円かかる」
「さらに、これまで事業費の7割は使っているが、事業全体の進捗(しんちょく)が遅い。3月末時点で、着手は6~8割だが、完成した国道、県道は数%、鉄道は75%。代替地の造成も1割だ。総合すると、ダム本体工事の約620億円以外に1000億円規模の支出増が見込まれる」
「これらを踏まえたうえで、継続か中止かを検討すると、継続した場合には実際2390億円必要だ。中止した場合には、自治体が負担した利水負担金を返すと仮定して、利水負担金890億円と生活再建関連の770億円の計1660億円が必要となるが、やめた場合のほうがはるかに安上がりだ。よく利水負担金は1460億円といわれるが、その4割(570億円)は国庫補助金であって、これは自治体への返還の対象にはならない」
さすがにこんな引用だけだと手抜きなので、双方の主張を以下に簡単にまとめておきます。
★小渕氏の主張
・すでに工事進捗は七割も済んでいる。
・今後必要な費用は生活再建関連費の770億円とダム本体工事関連費620億円の計1390億円だけだ。
・中止すると建設費を一部負担してきた6都県に直轄負担金の1980億円を返さないといけない。
・中止の場合、負担金の返還に加え別の治水、生活再建費が必要だ。
・1390億円<1980億円+αで、中止した方がハイコストだ。
☆嶋津氏の主張
・現在事業費予算の七割を使っただけで、工事進捗が七割済んだというわけじゃない。
・実際の進捗具合から、本体工事費用は追加で1000億円以上必要で、継続するのに計2390億円必要。
・中止した場合でも、自治体に返す費用のうち570億円の国庫補助金は返す必要はない。
・そのため、自治体への返還費用合計は1460-570=890億円。
・中止した場合は生活再建費用の770億円と上の返還費用890億円で、計1660億円必要。
・2390億円>1660億円で、工事を継続した方がハイコストだ。
見てもらえば分かりますが、嶋津氏の費用計算に対して小渕氏の費用計算はなんと言うか非常にアバウトで、私が見る感じでは嶋津氏の主張の方が正しいような気がします。それにしても、生活再建費用はどっちにしろかかるんですね。
私からこの議論に関連する情報を付け加えると、工事の進捗についてはどうも嶋津氏の主張通りにそれほど進んでいるとは言えないらしく、工程の中で非常に大規模となる底部補強工事がまだ済んでいないそうです。この底部補強というのはダムの水が貯まる箇所の底を水圧に耐えられるように補強する工事なのですが、この工事を実行するためには現在水が流れている川から水をすべて抜かねばならず、お金の方も相応にかかって来るそうです。
こういう話を聞くと、すでに工事は七割方終わっているというのはどうも冗談にしか聞こえません。第一、日本の行政工事が予算内で完了することなんてほとんどなく、現状での見積もり費用にある程度上乗せをして考えなければならないでしょう。
そして中止した場合にかかる費用についてですが、これについては一部、費用比較の議論に加えること自体に疑問を思う箇所があります。それはどこかというと、自治体への直轄負担金の返還です。
返還にかかる負担金の費用額は両者でそれぞれ異なっていますが、私が思うに、この負担金の返還は確かに国の支出で見れば明らかなマイナスですが、何も返したからといって突然空中に消えるお金というわけじゃなくそのまんま自治体にて使えるお金です。目的も用途もよく分からない八ッ場ダムに使われず自治体に返されるのなら社会全体で見ればプラスもマイナスもなく、無駄金のような計算に使うのは不適当なのではないのかと考えています。もっとも30億円も裏金を使っていたことが発覚した千葉県に返還しても、まともに運用されないのではないかという疑念こそありますが。
こうした予算面からもやはり八ッ場ダム建設は怪しいものなのですが、これに加えて私個人が考えるダム建設の弊害を考えるとなおさらその気持ちが強くなるわけです。何気にダムについては以前に勉強会にも参加したことがあるのですが、どうもいろいろ話を聞いていると、ダムというのはそのその機能以上に環境に与える負荷が非常に大きい代物だそうです。
まず一番基本的なことですが、ダムというのは作ってしまえば後は半永久的に使えるものではありません。上流から下流へ水を流すという役割上、年月とともにダムの底には土砂が溜まって行き、それとともに治水、発電機能は低下していきます。この土砂を取り除けばもちろん機能はある程度回復するのですが、深い水底にある土砂だけを除去するのは並大抵のことではなくその分の費用をランニングコストと捉えれば、シムシティみたいに安価で無害な発電施設ではありません。ちなみにシムシティで自分はバカスカ原発を作るけど。
そしてここが肝心ですが、一旦土砂とともに水の流れをせき止めてしまうため、ダムを作ってしまうとほぼ例外なく下流では水中の栄養素が減少してしまいます。それまで均質に保たれていた水中の栄養素がダムの建設によって変化するため川の生態系に与える影響は少なくなく、また川周辺の森林にもあまりよくありません。
90年代までダムというのは、治水と発電の両方を一挙に行え、かつ公共事業によるバラマキが経済成長のために非常に重要だと考えられた時代ゆえにあちこちで建設が行われてきました。しかしこの八ッ場ダムでも建設に反対する住民がいるように、実態的には建設地から立ち退かねばならない人間もいる上に目には見えない環境への負荷も大きく、決して得るものに対して犠牲が少なくはありませんでした。こうしたダム建設の負の面に初めて社会が目を向けたのは現新党日本代表の田中康夫氏が2000年の長野県知事選に出馬し、当選した際に主張した、「脱ダム宣言」からです。
現在でこそ私は田中氏の主張にはどうかなぁと思うところもあるのですが、この脱ダム宣言は日本の公共事業、ダム計画を大きく見直す第一歩となった点では田中氏を高く評価しております。そうした影響もあり、あくまで素人の意見として前回の記事と合わせてこの八ッ場ダム建設に対して反対意見を述べた次第です。
2 件のコメント:
初めましてこんにちは
いつも楽しく覗かせて戴いております。
ハッ場ダムについては興味深くみていますので私見をコメントします。
現在の情報を総合的に見て判断するとダム自体は有益より弊害のが強く出ていて中止との判断は妥当だと思います。
しかし、半世紀前の計画時の状況やこれまでの進め方は責めを受けるものでもないと感じますね。
この問題を契機に今後の長期計画における見直し方法や中止の判断方法
そして何より大事後始末をルール化する事が出来れば非常に+だと思いますね。
こと八ッ場ダムについては”凍結”し現状の分析と最新のデータにより見直しを実施し再度是非を問い、その後に判断すべきではないかなと感じています。
もし中止が決まったら既存の進捗をある程度生かしたまま有効利用できる方法を一般公募かなんかで募ったら面白いんではないかなと思います。
では、今後も更新を楽しみにしていますのでお身体に気をつけ頑張ってください。
namisenさん、コメントありがとうございます。あんまり調子に乗るのは良くないのですが、やぱりこうしてお褒めの言葉をいただけると俄然やる気がでてきます。
この八ッ場ダム問題はまさに言われる通り、今後の公共事業をどう進めるべきか、またどう検証し、どう中止するかという意味で大きな試金石になると私も思います。というのも日本の大型公共事業というのは計画ができ、その後の調査で公益性が低いと分かっても、これまでは無理やり実行されてきました。振り上げた拳を下げることはできないとでもいうべきか、こうした公共事業の伝統を見直すきっかけになれればいいのですが。
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