今日の記事は前回の、「竹中平蔵の功罪~陽編~」の続編で、「陽編」に対して「陰編」、前回では竹中氏の評価すべき政策について事細かに解説しましたが、本日は逆に非難すべき政策についてまた長々と開設する次第であります。恐らく今回もまたえらく時間と手間がかかるだろうから、現時点でテンションを引き上げるために「アンインストール」という曲を大声で今歌っています。
この竹中氏への評価については前回でも書いたように、その就任時から現在に至るまで激しく批判され続けています。しかし私の見方からすると、それまでの政治家の誰もできなかった画期的かつ実現性の強い政策を採ったことは高く評価しており、その評価すべき面が世間ではあまり評価されないことに対して、世間の批判はやや一方的過ぎるように感じていました。また竹中氏を批判する言葉についてもただ「格差を広げた」という文言ばかりしか見当たらず、具体的に彼のどんな政策が格差を広げたのかという議論が大半の批判には抜けているように見えました。もちろんしっかりとした論者の場合は具体的な政策や実体などを挙げていますが、そうした批判も含めて全体的には竹中氏個人への批判がやはり過分に強かったように思います。
ここで言っておきますが、私は決して竹中氏の肩を持つ気はありません。しかし冷静に評価、批判、分析を行うために、感情的とも取れる批判論についてははっきりと私の方からその批判者へと非難させてもらいます。その上で言っておきたいのは、このブログの記事でも敢えて分けたように、評価すべき面と批判すべき面をしっかりと分けて政策を見てください。絶対によくないのは、片面だけを挙げつらうことなのですから。
少し前置きが長くなりましたが、本題に移ります。単刀直入に言って、私が竹中氏の政策で一番憎んでいるのは医療制度改革です。竹中氏が実質的に経済政策を取り仕切っていた小泉政権時代、国の医療費は一貫して削減の一途をたどりました。その結果、小泉政権が終わってからようやく表面化して来ましたが各医療現場は過重労働や病院経営の悪化など混乱の一途を辿っています。具体的にどんな風に医療費を削減したかと言うと、単純に医師が医療行為を行った際に国が病院や医師に支払う診療報酬の削減が行われてきました。細かくは書きませんが、それまで5千円もらえていた医療処置への報酬が3千円に引き下げられたり、ひどい例などその処置を行うのに必要な薬代の方が報酬を上回るケースなども出てきてしまったそうです。そのような場合だと簡単に想像できますが、その医療処置を行えば行うほど病院は赤字を出すことになります。馬鹿げてますよね。
また高齢者の患者の自己負担率も徐々に増やして行き、いくつかのメディアでも取り上げられていますが病気になっても病院に払うお金がないために病院に行かず、病気を悪化させる患者も出ているそうです。さらに保険料を払えずに保険証を取り上げられて、今度辺りに書きますが資格証明証を持つ患者も年々増加しております。ついでに補足すると、今話題の後期高齢者保険制度も小泉政権時に成立してます。
ちょっと外れますが、この医療崩壊の問題は確かに大きな問題ですが、現在の大メディアには批判する資格はないと私は思います。というのも、以前にもちょっと書きましたがこの医療費の削減が行われた2000年代前半は、どの大メディアも少数の医療事故ばかりを大げさにまくし立て、実際に大変な思いで働いている立派な医師については全く取り上げず、さらには日本医師会が削減に反対を表明するのを報道する際も既得権益を守らんがためだというような批判的な報道ばかりしていました。私は大メディアの報道によって、国が医療費を削減しても問題がないような空気があの時代にできていた気がします。
話は戻りますが、この医療制度改革にはどれほど竹中氏が関わっていたかははっきり分かりませんが、私の予想では大半の面で関わったいたのだと思います。逆に、確実に竹中氏が関わって推し進めた政策と言うのが、彼への批判で最も多い規制緩和政策です。
この規制緩和政策というのは単純に言って、それまで総量規制といって、免許や許認可を国が管理することによってその業界へ異業種や新規参入の企業を日本は制限してきました。その制限をすべて取っ払うことが簡単に言って規制緩和です。
この規制緩和によって引き起こされた代表的な社会問題は、タクシーやバスといった交通業界の混乱です。私が2003年から高速バスを頻繁に使うようになって来ましたが、あの頃と比べて現在は非常に高速バスの行き先から運行数まで非常に多様化しました。そうして便利になったと思う一方、現場の運転手のルポを読むたびに素直にその変化を喜ぶことができないでいます。
ここ数年で、高速バスやタクシーの事故件数が劇的に増加しています。その理由というのも、規制緩和によって新規に参入できる企業が増えたためです。それまで5社だったタクシー会社が20社へと変わると、言うまでもなくタクシーの台数も約4倍へと増えます。ですがタクシーの乗客は増えるわけではないので、これまた簡単な割り算をすると最初の頃と比べてタクシー運転手の収入は4分の1になってしまいます。その結果、今ではタクシー運転手の方々は文字通り朝から晩までタクシーを走らせ、さらに企業間の競争が激しくなり料金も皆で下げあい、下げあった分皆でさらに収入が減るという悪循環に陥っています。文字通り、引いたら負けだが突っ走っても死ぬだけのチキンレースを行っている状況です。
高速バスにおいても同様で、不眠不休でバスを走らせて起こった衝突事故など、細かいのを挙げたらほぼ毎日起こっていると思います。確かに企業競争は重要ですが、今の交通業界は企業同士で共食いをし合って皆で共倒れしかねないほどにルールなき戦場となっております。しかもなお悪いことに、これは人材派遣業界において顕著ですが、その激しい競争のために法律を破って事業を行う企業も続出しているのに、竹中氏のいた時代はほぼ一貫してそういった法律違反への取締りが黙認に近いくらいに取り締まられなかった時代でした。むしろ、竹中氏とタッグを組んでいた現オリックス会長の宮内義彦による規制改革委員会でそういった法律違反行為が追認されるように緩和が進んでいったように思えます。
そんな例を一つ挙げると、労働者派遣法の2004年の改正では事実上、ってか私もやってたんだけど、それ以前から行われていた製造現場への労働者の派遣が正式に認められています。同時に、派遣期間の上限もこの時に一年から三年へと延長しています。
重ねて言いますが、企業の競争は必要です。しかし過当競争になると皆で共倒れして、結局皆で損をしてしまうので、経済には政府が最低限のルールと枠を作る必要があるのです。
竹中氏は参考文献の「縦並び社会」という本の中のインタビューで過当競争が続くタクシー業界について、「所得は減ったろうが、雇用は増えた」と言って問題がないと主張していますが、やはりこれは間違いでしょう。
私が竹中氏の政策で疑問に思う最期の政策は、企業買収の法制改正です。これについては専門外であまり詳しくはないのですが、海外企業による日本企業の三角合併が、ライブドア騒動の際は一時施行を延期しましたが、実質的に認められるようになりました。別にM&Aが全部悪いと言うわけではありませんが、アジア通貨危機の先例もあることですし、多少の予防線は必要だと思います。それらを取っ払い、アメリカの企業に城門を開くようなこの行為についてははっきりと批判こそしないまでも、私は疑問に感じました。
本当はまだいろいろ批判点はあるのですが、彼への批判はそれこそそこら中に溢れているので私がわざわざ書くまでもないでしょう。ですが最期に気になった点として、今回この記事を書くために復習をしていたら意外な事実に気がつきました。その事実と言うのも、よく世間では小泉政権が国民の生活格差を作ったと言われていますが、その格差を生む要因となった政策のほとんどは、なんと小渕政権時に成立しているものが非常に多いのです。
具体的に挙げていくと、人材派遣業法が現在の形のようにほぼ全業種に渡って原則自由化が認められたのは99年、84年には累進化税率による所得税の限界課税率(所得の高い人間に対して高くかけられる税率の上限のこと)が70%だったのが、99年には37%まで実質半減化されています。
さらにさらに書くと、これは小渕政権ではなく橋本政権時ですが、98年には姉歯事件を引き起こすきっかけとなった建築審査の民間開放を盛り込んだ建築基準法の改正、期待の整備不良が増加する一因となった航空業界へ新規参入を認める規制緩和も97年に改正されています。
詳しく調べてみると、竹中氏は小渕政権時の99年にすでに政府の経済問題の諮問機関に委員として入っております。しかし当時からそれほどの影響力があったのか、これら格差を生む原因となった政策にどれほど関わっていたかについてはまだ議論の余地があります。
しかしそれにしても、これは以前に書いた「小渕元総理の評価」で私は、真に格差を作ったのは小渕政権で、小泉政権は、確かに問題ではあるが格差を放置しただけと書きましたが、改めてこの事実を見返してみると、ますますその思いが強まります。もっとも、これらの問題は時間が経って表面化してきたものばかりですから、退任後に表面化した後期高齢者医療制度のように、これから我々の知らない小泉、竹中時代の改悪が続々と出てくる可能性は高いでしょう。そうなると、竹中氏の業績はこれからどんどんと悪くなって良くなる事は少ないことが予想されます。
竹中氏への総評として私は、マクロ経済を立て直したのは高く評価できる一方、格差問題に一切対策を打たず放置した、というより助長させたのはやはり許せません。規制改革についても、本来もっと規制緩和が必要なテレビ業界などは改革されず、逆に必要だった場所をどんどん緩和して行ったのも納得がいきません。ですがあの時代に、この竹中氏の力は必要だったと思います。なので願わくば、今後は再登板せずにこのまま表舞台には上がらないことを祈ります。
参考文献
「悪夢のサイクル」 内橋克人 文芸春秋社 2006年
「縦並び社会」 毎日新聞社会部 毎日新聞社 2006年
2 件のコメント:
パソコンが調子悪くて久しぶりの投稿です。竹中氏は政治的手腕はあると思いました。これからも、竹中政権時の問題が浮上してくるかもしれませんが、なんとか対応していって欲しいものです。名軍師みたいな人が現れてくれたら良いのに。
現在の政治家で政治力や知略の高い人って誰だと思いますか?
この記事は書いててどんどん長くなり、最後のほうなんてへとへとになって、後から思うと書き忘れた内容がどんどん出てきたのですが、ご指摘の通りに竹中氏は政治的手腕にはとても学者出身とは思えないくらい優れていました。
陽編でも書いていますが、何をどうすれば現実がどう動くのかということがよく分かっていました。私の予想ですが、この人はアメリカの大学でも教授をやっていたので、その際にこういった駆け引きなどを覚えたのだと思います。
それで現在の政治家で言うなら、詳しい内実は言えませんが、以前に総務大臣をやっていた菅義偉氏などは政治力が高いと言われています。政策のことが分かっていると言うのなら……また長くなるから、記事に書きますね。
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