私が中国に留学中、授業時間が余ったのである程度中国での生活を過ごしてきた私たち外国人学生に対して、中国人の先生がある日、「あなたたちから見て、中国人はどんな風に映る?」と尋ねてきました。すると一人の学生が「行列に並ばない」、とお決まりのセリフを言いました。それに対し、他の数人の学生もうんうんと無言でうなずきました。
先生も苦笑しながらその通りねと言いながら続けて、「何で中国人は行列に並ばないのかしらね」と、逆に聞いてきました。すると間髪をいれずにドイツ人の学生(チャイニーズネームなら「郭焼磊」)が、「並んだところで、目当ての物が手に入らないことがわかっているからだ」と答え、先生も再びその通りと頷きました。
ここまで話すと先生は改めて私たち学生に向かって、こう話しました。
「少し前の中国は文化大革命といって、非常に社会が混乱した時期がありました。その頃は今言ったように、お金を持って並んでも何も手に入らない生活を中国人は強いられ、その時の体験から中国人は行列に並ばなくなったのだと、私は思っています」
この先生の言ったことは間違いなく正しいと私も考えています。よく中国人が行列に並ばなかったり信号を守らなかったり、果てには商取引上の約束を守らないことを中国人の大昔からの民族性だと言う人もいますが、日本人が古くから民族性と思っている習慣や行動形式の大半というのは、案外歴史が意外に浅かったりします。
たとえば日本人は逆によく自分たちは行列好きと自認している節がありますが、これもあれこれ調べてみたところ、どうも戦中の配給制で行列を作ることを強いられたことから始まったようです。イギリス人も全く同じですし。
このように、思考方法や行動形式はそれほど大きく歴史を掘り下げなくとも、割と近現代史をみることによって形成過程を追うことができます。そこで中国の場合ですが、現在の中国人に最も影響を与えたのはほかならぬ、これから連載して解説していくこの文化大革命に間違いありません。行列を守らないことから相手の意見に対する反応など、さらには現中国の国家体制からその存在意義もこの文化大革命を否定することで成り立っています。それほどまでに、文化大革命が中国に与えた影響は計り知れないのです。
それほど現代中国に大きな影響を与えた文化大革命ですが、その内実を詳しく知っている日本人というのは非常に少ないと私は思っています。私は留学中、中国に来た日本人の多くが中国に対する知識をほとんど持っておらず、中には満州事変すら何のことだかわからない日本人がいた事に怒りすら感じましたが、この文化大革命についてはわからなくてもしょうがないと納得します。何故そんな風に思うのかというと、それほどまでにこの文化大革命は問題が複雑で、大まかな流れだけでも政治学、歴史学、私の専門とする社会学のそれぞれの見地からで全然構造が変わってきてしまうからです。大学のある中国政治に関する授業においても講師が、もしこの文化大革命を取り上げるならば授業時間が一年あっても足りないと言うくらい、非常に理解が難しい問題であります。
実際のところ、私もどこまでこの問題を理解しているか自分でも疑問です。しかし中国との関わりが増えていく中、日本人でもこの文化大革命の知識を持つことは非常に重要になってきますし、また解説サイトはいくつか見受けられますが、やはり非常に読みづらいし理解し辛いものが多いので、自分の表現力で可能な限りわかりやすくできるように挑戦してみようと思います。
解説は基本、私の専門とする社会学的な見地で進めていきます。私の理解でも、この文化大革命は一大政治事件というよりは人類史上最高のモラルパニックというように見ております。参考資料はまたも安直にウィキペディアの「文化大革命」の解説ページと、現在も活動なされている中国人映画監督の陳凱歌氏の著作「私の紅衛兵時代」と、同じくこの時期に青春時代をすごしたユン・チアン氏のベストセラー作の「ワイルド・スワン」に拠ります。特に「ワイルド・スワン」は文化大革命の資料としては簡単に手に入れることができ、内容も一級品といってよい作品なので、もし本格的に調べたい方などがおられれば手にとることをお薦めします。
皮肉な話ですが、この連載は日本に来ている中国人留学生の方々に一番読んでもらいたいです。先ほども行った通りに現中国政権はこの文化大革命を否定することで成り立っており、比較的国内でも検証が進んでいるのですが、それでも聞くところによると、現代の中国の若者はこの辺の知識が全くないと言われています。個人的な見解ですが、やはり文革を経験した方からするとこの歴史は口をつぐみたくなる内容だからなじゃないからだと思います。また先ほどに挙げた「ワイルド・スワン」は世界中で売られていますが、中国語版は未だ出版されていません。なので一つの礎石という具合に、私のブログを活用していただければと思います。
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